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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 だが、意識のない兵助の看病を懸命に続けていた姿、寒い夜、冷たい井戸水を立て続けに頭から被っていた姿、野辺送りの日の悄然と肩を落とした姿―、頼りとする亭主が倒れてからのお民を見るにつけ、お民もやはり一人の女なのだなと考えを改めずにはいられなかった。
 昨日、何度めのお民の泣き顔を見てからというもの、源治の瞼に、あの泣き顔がちらついて離れない。昨日のお民の涙は、とりわけ源治の心を深く抉り、更に強烈に捉えた。

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