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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

 お民の眼尻には今にも溢れそうになった涙の雫が宿っていた。これ以上、泣き顔をこの男に見られてしまったら、お民はもう二度と立ち直れない。〝大丈夫か〟と優しく訊ねられたら、相手の迷惑や気持ちも顧みず、その腕に取り縋って泣いてしまうかもしれない。
 お民にしてみれば、最大限の努力を払って努めてさりげなくふるまっているというのに、源治の声は怖ろしく不機嫌だった。

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