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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 恐らく、徳平のような男を根っからの商人(あきんど)と呼ぶのだろう。穏やかな人柄の徳平は、店子たちから慕われていた。
 店賃が愕くほど安い代わりと言っては何だが、徳平店はまさに〝おんぼろ長屋〟というにふさわしかった。このような粗末な棟割り長屋は江戸の町のどこにでもよく見かけられるものだが、はっきり言うと、その中でも酷(ひど)い。

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