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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第8章 三つめの恋花  桜いかだ 其の壱 

 そこまで考え、弥助は己れの突飛もない空想に肩をすくめる。おれんとは昨日、今日知り合ったばかりではないか。弥助は首を振って、とりとめもなくひろがってゆく自分の考えを振り払った。
 ふと空を仰ぐと、新月が覚束ない光で脚許を照らし出していた。生まれたばかりの細い月を見上げながら、弥助は愛娘の待つ我が家へと足を速めた。
 〝花のれん〟へ向かっていた行きとは裏腹に、むしろいっそう強まったはずの寒さも冷え込みも弥助には一向にこたえなかった。

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