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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第9章 花いかだ 其の弐

 弥助はその時、束の間、おれんが見せた表情に胸を衝かれた。まるで理不尽に与えられた痛みに耐えるような眼で、おれんは一瞬、弥助を見つめたのだ。
「とうとう一度もおいでになっては下さらなかったんですねえ。本当に冷たい方」
 おれんはすぐにやるせなさそうな表情を笑顔の下に隠した。殊更伝法というか蓮っ葉な物言いをするのは己れの感情を隠すためなのか。

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