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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

 半月前の夜、自分の腕の中であれほど乱れ、潤んだ瞳で〝行かないで〟と訴えながら、こうもあっさりと手のひらを返すような態度を取れること自体が俄には信じられない。自分たちが共に過ごしたあの狂おしいまでのひとときは一体何だったのかと、まるで狐か狸に化かされたような気さえする。
 自分に何度も抱かれて、あれほど切なげな喘ぎ声を上げながら、今は素知らぬ顔で清七を無視しようとする女を恨めしいと思うよりは、その心が理解できなかった。

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