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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱 

 千汐は一度、母の部屋の傍を通りかかったことがある。そんな母親に格別に用事があるはずもなく、ただ偶然のことである。しかし、母の部屋から聞こえてきたその声に、千汐は思わず耳をそばだてた。ひそやかな部屋内から響いてくるかすかな衣擦れの音、くぐもった声や息遣い―、それらがそも何を意味するものかは世間知らずの十五の娘にも自ずと知れた。

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