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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱 

 こんな境涯にまで身を堕としたのは、よほどの事情があることは判り切っていた。他人に知られたくはない過去や傷痕なら、数え切れないほどある。それが判っているからこそ、夜鷹同士、夜、道ですれ違うことがあっても、何も言わずただすれ違うだけなのだ。
 男はしばらくポカンとしていた。まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような表情だ。
 間延びした沈黙が流れ、男がポツリと呟く。
「そうか、私はフラレたんだ。だから、お督さんが来なかったのか」

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