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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第12章 山茶花~さざんか~ 其の弐 

 ス、と男が動いた。
 男が近づいてくる。一瞬、殴られるのだと思った。
 騙したな、この淫売め。
 そんな罵詈雑言を投げつけられるものだと覚悟していたのに、実際はそんなことは何怒らなかった。
 男はただ哀しげな瞳で、千汐を見つめていた。男の手が伸び、千汐の手首を掴む。
「可哀想に、さぞ辛かったろう」
「同情なんて要らない。何で怒らないのよ?

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