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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第12章 山茶花~さざんか~ 其の弐 

 引き攣れた傷痕を、男の指がつうっとなぞる。何故か、とうに痛みも感じなくなったその傷痕がズキンと痛んだ。いや、それは痛みではない。甘やかなときめきのような、じんと痺れる心の震えのような。
「この傷痕は?」
 ふと問われ、千汐は正直にありのままを応えた。
 話を聞いている中に、男の澄んだ瞳がみるみる翳る。

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