テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

 毎年、冬が来る度に、江戸にはこの種の風邪が蔓延し、罪なき人々の生命を多く奪った。年寄りや幼児、殊に普段から満足な食事も取れぬ栄養状態の悪い裏店暮らしの人間がまず犠牲になった。曽太郞のような健康な若い者が生命を落とすことは稀であったものの、どうやら、千汐と出逢った夜、和泉橋でお督(おつな)を長らく待ち続けていたのがたたったらしい。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ