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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第13章 山茶花~さざんか~ 其の参  

「あたしにも忘れられない男がいるんだよ。―なんて言ったら、あんたは、じゃア、どうして、あんたにあたしが良い加減な男に見切りをつけた方が良いって言うんだって怒りそうだけど。あたしはその男を忘れられず、いまだに探してる。馬鹿だろう? 富山から出てきて、たまたま江戸でばったり逢った男にこの江戸でまた出逢える望みなんてないにも等しいのにさ。しかも、その男に裏切られてたことも、あたしはとっくに知ってるんだ」
 おつながその男と出逢ったのは、十五年も前のことだという。男の名は棄松。越中富山から出てきた薬売りで、当時十七であったおつなよりは、ひと回りは上だった。

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