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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

 彼の少し手前をやはり急ぎ足で歩く女人の後ろ姿が見えた。海老茶の地に麻の葉模様のその着物は確かに見憶えがある。
 いや、いくら忘れようとしても、けして忘れられるものではない。
 清七は咄嗟に立ち止まった。自らの女へのあまりに烈しい恋情を自覚して以来、女には近付かぬと自分自身に戒めていたのだ。

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