テキストサイズ

君に恋した冬

第12章 そしてまた一つ




久しぶりのアキラの部屋は
少し煙草の匂いがしていて何も変わっていなかった

たった数日来なかっただけで
本当に久しぶりの様な気がして由梨は思わず立ち尽くす


そんな由梨にアキラは


「座って待ってろ」



とキッチンへコーヒーを淹れに行った



透明のガラステーブルにカタッと
アイスコーヒーの入ったグラスが置かれる


由梨はありがとうと小さくお礼して
そのアイスコーヒーを口に含む


はぁ…落ち着く…



あれほど色々確かめたいと思っていたのに
いざアキラを目の前にすると
安心感からそれを少し忘れてしまう



『…』


「…」


心地よい沈黙が辺りを包む



本当に、久しぶりだな…この感覚…




「…飯、食ったか?」



不意にアキラが口を開いた



『あ…そう言えば、お昼はまだ…』



とても食べられる状況では無かったが。



「ちゃんと食わなきゃダメだろ」


少し悲しそうな目でアキラは由梨を見つめ
ふと由梨の手首を優しく掴んだ



「痩せすぎ…」



『あ…』



以前の由梨と照らし合わせる様に手首を握る
アキラの大きい手は、由梨のやせ細った手首を
簡単に全て包み込めた



『ごめん…』



何故だか自然に謝ってしまった



「抱き心地悪ぃだろ、こんな細いと」



そう言ってアキラはニッと意地悪な顔をして笑った



『ど、どーせ前は少し太ってたって言うんでしょっ』


思わず掴まれた手首を引っ込めてアキラと距離をとると
グイッと頭を持ってまた引き寄せられる



「言わない。」



たった一言

それだけを耳元で静かに囁かれ
一気に心臓が暴れ出す


ドキンドキンドキンドキン


心臓の音が聴こえてしまわないかと心配になるほど
由梨はドキドキしていて、顔も真っ赤だった












ストーリーメニュー

TOPTOPへ