君に恋した冬
第16章 衝突
「こいつを兄貴が今まで連れてた女と一緒にすんな」
その一言にアキラも立ち上がり、静かに恭介を一瞥する
「…なんでてめぇに指図されなきゃなんねぇんだよ」
その態度に恭介はいよいよアキラの胸ぐらを激しく掴んだ
「てめぇ…!」
「離せ」
2人の静かだけど激しい争いに、由梨は思わず立ち尽くしてしまう
「兄貴…気付いてねぇのか?…由梨は」
「黙れ」
恭介が何かを言い掛けると同時に、アキラの低くて鋭い声が部屋に響いた
「恭、何しに来た」
さっきまでの優しいアキラはもういなくて、そこには初めて出会った時と同様の冷酷な表情を浮かべたアキラがいた
「鍵を…返しに来た。
母さんが入院する…。俺は実家に戻る」
そう言って恭介は部屋の鍵をアキラに差し出した
アキラはそれを黙って受け取ると、煙草に火をつけ、窓際にあるロッキングチェアに腰掛けた
「兄貴…由梨は俺が連れて帰る」
『恭介…?』
アキラは依然黙ったまま、視線を窓の外に向けていた
「こいつは俺が守る。こいつを悲しませるのは、たとえ兄貴でも誰であろうと許さない」
「…」
「遊びなら、他の女でやってくれ。
気付いているなら尚更、もう由梨には近付かないでくれ。」
短い沈黙の後
「…好きにしろ」
ボソッとアキラが呟いた
その表情はやっぱり見えなかった
「最低だな…兄貴…
行くぞ。」
恭介に腕を引かれてアキラの家を出る
由梨は扉が閉まるその瞬間まで、アキラから目が離せなかった