君に恋した冬
第18章 想いにさよなら
「別にいいよ。それより、なんでこんな所にいんの?」
そう。ここは病院。
気の利いた嘘が思い浮かばない。
焦りから視線がうろうろと泳いでしまう。
『えっと…ちょっと色々あって…』
どう答えたものかと考えあぐねて口ごもっていると
今度は恭介に声がかかる
「恭ちゃん。今日も来てくれたの?」
その声の主を辿って振り返ると
そこには車椅子に乗っているおばさんと、おばさんに繋がれている点滴を持ったおじさんが立っていた
「母さん。今日は調子いいのか?」
恭介がそちらに笑顔で歩いて行った
良かった…助かった…
思わぬ人の登場で、なんとか恭介の質問から逃れられた事にほっとする
「あら…そちらの方は?」
優しそうな顔をしていて、パジャマ姿だけど、どこか品のある雰囲気を感じさせる恭介の母が由梨に声をかけた
アキラのお母さんとお父さん…
こんな人達だったのね
目元がお母さんにそっくりなんだ…
恭介は、お父さん似だな…
あ、だから兄弟って気付かなかったんだ…
由梨はしっかりとおばさんに向き直って
『初めまして。白川と申します。』
ぺこりと頭を下げて挨拶をした。
すると、おばさんとおじさんの表情がみるみる驚いた様な表情に変わっていき
なんだろう?と怪訝に思っていると
おばさんは目に涙を浮かべて
「もしかして…由梨ちゃん…?」
と尋ねてきた。
『はい…そうですけど…』
どうして知ってるのかな?
恭介が話したのかな?
おばさんは由梨の返事を聞くと
顔を手で覆ってわっと泣き出してしまった
どうして泣いているの?
焦る由梨とは対象に、おじさんと恭介は
どこか沈んだ顔をしていた
由梨はその様子に困惑してしまった