近くて甘い
第52章 未来のために
「おいっ!こんなミス許されると思ってるのかっ!」
「すみませんっ…」
ガミガミと上司の人に怒鳴られている加奈子さんの背中が小さい。
「やめると決まってから気が引き締まってないんじゃないか?」
「っ……」
「よくしてもらった会社にそんな態度で──」
「こっ、こんにちはっ!」
ダラダラと話を続けようとする上司の人から、加奈子さんを救い出したくて、気付いたら私は、二人の間に入り込んでいた。
「こっ、これは…」
「真希ちゃん…」
「いつも…お勤めご苦労様です…」
ぺこぺこと頭を下げるその人に、私はなるべく笑顔を返した。
こんな風に、光瑠さんの婚約者であることを利用したくはないけど、加奈子さんが助かるなら…
「少しだけ…加奈子さんをお借りしてもいいですか?」
「はいっ…もちろんですっ!」
ホッと息をついた私は、丁寧にお辞儀をすると、クルリと振り返って加奈子さんのことをみた。