近くて甘い
第54章 恩返し
「そういう意味では…
あいつに破れて失恋したっていう経験の先輩だよな、俺は」
浩平くんは、そう言って、光瑠さんの方を見た。
そんな事言われちゃうと、何も言えないんだけど…
私は、なんて言ったら分からなくて、俯いていると、浩平はフッと笑って私の顔を覗き込んできた。
「いや、気にすんなよ?俺今幸せだから」
顔を上げると、少し照れくさそうにした浩平くんが、チラと愛花ちゃんの方に目配せをした。
ハッとした愛花ちゃんは、真っ赤になって俯く。
そんな和やかな雰囲気を纏っている二人を見て、心が温かくなる…
人を想って…
そしてその人に想ってもらうことって、本当に素敵なことだ。
それがどんなに幸せな事なのか…
私だって、分かってる──…
私は愛花ちゃんから光瑠さんに視線を移した。
どうしたらいいのか分からずに、そわそわしている光瑠さんが、少しかわいそうに見えて、私は彼の元に近付いた。