近くて甘い
第54章 恩返し
「要さん…」
「……………真希さん…」
力ない要の瞳に、真希の真っすぐな瞳が向けられる。
「今回ばかりは…
光瑠さんが正しいと…思います」
「っ……」
今自分が何をすべきなのか…
頭のいい要が、それを分かっていない訳が無い。
「私がいう事じゃないかもしれないって分かってますけど…
でも…
言います…」
覚悟をしたような真希のことを見ながら、要は唾を飲み込んだ。
「行くべきです───…」
そう言われるのも
そうするべきなのも
本当は分かっていたのに……
フッと笑った要は、真希の手を瞬時に掴んだ。
「真希さん…」
「えっ…あ、はいっ…」
「やはりあなたに出会えて
良かったです──」
パッと手を離した要は、そのまま振り返ると、扉を勢い良く開けて、外へと駆け出していった。
その様子を遠目から眺めていた光瑠は、フッと笑いながら隼人の頭を執拗に撫でた。