近くて甘い
第55章 淡い恋の終わり
電話を切った要は、腕時計を見て、溜め息をついた。
要に迷いはない。
だから今ここに、車を止めて、ある人物を待っているのだ。
──────伝えなきゃ始まらない…
それは、以前要が光瑠に伝えた言葉。
まさか、社長に言い返される日が
来るとは…
一人で笑った要は、マンションから出てきた人物の影に、背筋を伸ばした。
自覚したからこそ、しっかりと伝えなくてはならないことがある。
辺りをキョロキョロとしながら、こちらに向かってこようとする恵美のことを見ながら、覚悟を決めていたその時──
恵美は、突然に表情を強ばらせて要の方から視線を反らした。
なんだ…?
視線を遮る、大きな背中。
その相手に微笑んだ恵美は、ギュッと相手に抱き着いて、何やら説明をしている。
旦那だ…
すぐにそれを察した要は、再びフッと笑いながら、二人の様子を見ていた。