近くて甘い
第58章 社長夫人のお受験
人一倍頑張ってきたという言葉に、ウルっとしてしまった。
高校二年生はまるまる行けなかった私にとって、確かにそのブランクを取り戻すのは容易いことではなかった。
仕事で忙しい光瑠さんや要さんに教えてもらって、そしてやっと今がある。
「確かにそうですね。お二人に教えて頂いたのに体調不良で全力が出せないなんてことになったら…」
ニッコリと微笑んだ要さんは私のペンをペンケースにしまった。
「家に帰ったら休むんですよ?」
「はい!」
「あなたのことだから、家に着いてまた勉強し出しそうだ…」
「っ……」
言葉を詰まらせていると、要さんはグッと片眉を上げた。
「図星な顔をしてますね…」
「そんなことはっ…」
「帰ったらしっかりと休むこと!社長に監視してもらいますから」
っ……
もう…なんて信用無いんだろう…。
あまりに言われるのでムッとした私を見て要さんはフッと笑うと、イスから立ち上がった。
「では、次回は試験前最後になりますが、頑張りましょう」
「……はい」
試験前…最後…か…
ジャケットを正した要さんは、では、と軽く頭を下げると、そのまま会議室を後にした。