近くて甘い
第58章 社長夫人のお受験
家についてから、猫のユキちゃんを膝に乗せて、私は単語帳を開いていた。
かりかり勉強してるわけじゃないし、光瑠さんも帰ってこないし、いいかなぁ…
こんなのは、勉強の内に入らないと思うし…
自分に言い訳をしながら、私は単語帳をめくっていた。
この前まで全然覚えられなかったけれど、今となってはスラスラと解けてページをめくっている。
どうなるか分からないけれど、光瑠さんのために、通訳が少しでも出来ればと思って決心したことだから、苦ではなかった。
春になったら結婚して、そして、進学して…
しばらくは学生生活を続けることになってしまうけれど、それで夢が叶えられたらどんなに幸せだろう…
「っ……」
幸せな未来を想像していた矢先、胸がグッと苦しくなって、私は、息を詰まらせた。
それと同時に、膝で抱えていたユキちゃんが、後ろから出てきた誰かの手によって抱えられてしまって、私はハッとして後ろを見た。
「………今日はもう勉強をしないで休めと、そう関根に言われたはずだが…?」
「光瑠さんっ…」
呆れた顔をしながら、ユキちゃんを抱えて私のことを見ている光瑠さんは、ん?と顔をしかめて私に顔を近付けた。