近くて甘い
第58章 社長夫人のお受験
「……もう時間だろ…
そろそろ行け…」
「はい…じゃあいってきます」
するりと、真希が自分の腕から抜け出て行く。
心配だ…
きっとしっかりとやってくるだろう事は分かっているけれど…
どうも胸騒ぎがして仕方がない…。
せかせかと歩く真希の後ろ姿を光瑠は切なげに見つめていた。
そんな光瑠の肩に要は手を乗せた。
「きっと…大丈夫ですよ…」
「あぁ…」
「しかし…やはり体調が良くなさそうですね…」
「隼人の風邪がうつったみたいだ……大分良くなったとは言っていたが、確かにまだ顔色が悪いな。
今日の試験が終わったらゆっくり休ませる」
「それがよさそうですね…」
二人はそんな会話をしながら、見えなくなるまで真希のことを見送っていた。
「さて…俺たちは会社にいくか」
「そうですね…」
いつになくそわそわとしている二人を見ながら、有川家の人々は隠れて微笑みを洩らしていた。