近くて甘い
第60章 卒業と、それから…
「真希…」
車の揺れから私の身体を庇うように、光瑠さんは私を支えると、ジャケットの内側に手を入れた。
ドキドキドキドキ…
鳴り止まない鼓動を感じながら、私は光瑠さんが片手で開いたその小さな箱の中身にハァッと息を飲んだ。
「………結婚してくれ」
「っ…光瑠さん…っ」
「予想外なことが起こったせいで、式は挙げられないが…」
そう言いながら、光瑠さんは私のお腹に触れる。
「幸せにする自信がある…。
これから先もお前と一緒に過ごしたい。
そして、これから先もお前を愛していたい…」
ささやくような、そんな言葉に、渇いたはずの涙がまた私の頬をハラリと流れた。
「だから…
俺と…結婚してくれ…」
出会いは突然で、最悪だった…──
行き違ってばかりで、心無いことを言われたことも、言ったこともあった…
それでもたまに垣間見せる優しさに胸が温かくなって、安心している自分がいて…
気付いたら私の心は光瑠さんで溢れていた──…
「私も…
光瑠さんのことを、これからも愛していたい…」
微笑んだ光瑠さんは私の左手の薬指に指輪をはめた。
「幸せです…っ」
「………これからもっと幸せにしてやる…」
得意げに光瑠さんが言うと、静かに車が停車した。