近くて甘い
第61章 近くて甘い
より一層腕を強く掴まれた感覚に光瑠は目を見開く。
「もう…どうしてよ…!お父さん、いいでしょ…?」
「っ……だめだ…」
「お願いっ………」
「だ、……だめ、だ…」
「大切にするからぁー!」
「っ…………だ……」
「お父さん………ね…?」
「っ………わ……かった…」
やったと声を上げる望の声を聞いて、光瑠はハッとした。
今…完全に魔法に掛かっていた…。
それも、以前掛かった覚えのある魔法だ…
「ちょっと光瑠さんっ…!?」
「俺は悪くないっ…。お前が…っ…望に変な技術を教えたんだろうっ…」
「へ…?技術…?何言ってるんですかっ…!もうそんなことで誤摩化してっ…!」
「ねぇ、お父さん、いつ買ってくれるの?」
「望!いい加減にしなさいっ…!」
再び溜め息をついた光瑠は、両腕を掴まれながら、顔を上げて天井を仰いだ。
妻と娘に翻弄される毎日──…
幸せな事には間違いないが…
「次の子が男であることを願う…──」
ぽつりと光瑠が呟くと、光瑠の板挟みを救うように、ノックの音が響いた。