近くて甘い
第61章 近くて甘い
「そう!今日一耳惚れしたんです!」
「ひとみみぼれ…?」
光瑠さんの異変に気付かない望は、憚ることなく訳の分からない言葉を言った。
「そう!一目惚れの耳バージョン!」
「どういうこと?」
「今日学校帰りに河原でトランペット吹いてる男の子がいて。好きになったの」
あまりにはっきりしたこの言葉にその場にいた全員が目を見開いた。
「望…まさかそれでっ…トランペットが欲しいと…」
中でも人一倍絶望の色を見せる光瑠さんに向かって、望はうん!と元気よく返事をした。
「そ、そんなものは買ってやるわけないだろうがっ!!」
「なっ、どうして⁉︎ お父さん分かったってさっき言ったじゃん!」
「話が違うだろうがっ…!大体お前に恋愛は早い!」
「なんでよ!私もう15だよ⁉︎」
「関係ない‼︎‼︎ 大体そんな風にお前をたぶらかしたのはどこの男だっ…!今すぐ酒田に調べさせ──」
「そんなことしたらお父さんのこと大っ嫌いになるから!」
ピタリと言葉を止めた光瑠さんは、ギリギリと奥歯を噛むと、あーーーー!っと叫びながら頭を掻いた。