近くて甘い
第27章 キスの責任
早朝の社長室。
髪をかきあげる光瑠の前に酒田は座った。
「……とても…言いにくいことを今からお話しします…」
含みをもたせたその言い方に光瑠は眉を寄せた。
眠気覚ましのコーヒーよりも何倍もその言葉は刺激がある。
「そういう前置きが一番俺を苛つかせることに、そろそろ気付いたらどうなんだ…」
「すみません…」
真っ青な顔に撫で付けられた髪。
情けない秘書の姿に光瑠は怒鳴る気も起きなかった。
「あのっ…突然で申し訳ないのですが…先方の都合で…その…っ…パリに…」
「ダメだ───」
早々に話を遮られた酒田は、震え上がる。
せっかく禁句である“パリ”まで言えたのにっ…
「社長…っ…お願いしますっ…そう言わずに話を…」
「絶対に行かない。あそこは全くいい思い出がない」
足を組んで椅子を回した光瑠は、窓の方を見て黙った。