近くて甘い
第29章 Little sisters!
玄関で、両腕を掴まれながら、要は、はぁっと深い溜め息をついた。
「あのなぁ…ここにはメイドもいないし、執事もいないんだ…」
「そんなことよりこの傷どうしたのっ!?」
「せっかくのいい男が台無しぃ!」
沙紀は要の口元の傷に優しく触れると、要は呆れたように笑った。
“そんなことより”どころではない惨劇が、すでに玄関から始まっている。
今まで家の事など自分でやったことのない二人の妹を自宅に泊めたらこうなる事は、少し分かっていたことだが、予想以上の散らかりぶりに、もう笑うしかない。
「ねぇ…!要聞いてるの!? この傷どうしたのってば!」
「……転んだんだよ」
「もうっ!そんなんじゃ全然騙されないんだからね!私たちもう子どもじゃないんだよ!」
むっと膨れた一番下の妹の沙羅の頭を撫でながら、要は顔を覗き込んだ。
「こんなに散らかすんだから、充分子どもだろ?」
「っ……これでも頑張ったの〜!」
叫びながら、床に落ちたシャツを拾った沙羅を見ながら、プッと要は吹き出した。
「頑張ってないじゃん…私が片付けてもすぐに散らかすんだから…」
「……姉さんだって昼フライパン焦がしてたじゃん!」
新たな情報に、要は引きつった笑みを見せていた。
「分かったから…とりあえず、仕事で疲れている兄貴を玄関で引き止めないでくれるかな?」