近くて甘い
第32章 クッキーの教え
「おばあさんの言う通りだね…」
そして、それが、思ったよりも要の事を救っていた。
“もしも”の世界はとても魅力的だ…。
でも、そんな世界はない。
そんな事を考えているのは、後ろ向きでいること以外の何者でもない───
「僕も…そろそろ前に進まなくちゃな…」
「副社長……」
先ほどキャッチしたクッキーを要は見つめると、それを頬張った。
まだ温かいそのクッキーからは、甘くて、落ち着いたアールグレイの香りがいつも以上に広がる…
「美味しいよ…とても…」
「っ……良かったっ…」
「……本当に…とても…」
何故か目頭が熱くなって、要は手で押さえた。
「副社長…?」
「っ…おいしすぎて…感動したみ──」
「明日はアーモンドクッキーですっ…」
ギュッと手を握られたのを要は眺めた。
まさか、
彼女に慰められるとは思わなかった──…
「……楽しみだ…」
要は顔を上げて、いつも通りの笑顔を加奈子に見せていた。
それは
いつも通りの…
無理に作ったものではない笑顔だった…