近くて甘い
第49章 逃げ道
「副社長…これはそちらの書類では…」
「ん?ああ…すまない」
いつもは見せない落ち着かない要の姿に、社員一同が顔を見合わす。
また真希さんに何かあったのだろうか?
皆がそう思うのは当たり前の事だ。
だが、皆の思惑を外れて、要はそわそわと別の人物を探していた。
片想いを宣言された日から、欠かさず届けられていたクッキー。
それが、今日加奈子が現れなかったことで手元に無い──…
風邪でも引いたのだろうか?
そんな事を思っていた丁度その時、同僚の藍と会話をする加奈子の姿が目に入った要は、あっと小さく声を上げて傍へと近付いていった。
「田部さ──」
「ええええぇええ!?!?!? プロポーズされたぁあ!?!?!?!?」
「────…」
大きな声を出す藍を必死で止める加奈子の姿を見ながら、要は身体を膠着させた。
「ちょっとっ…!声が大きいでしょっ!」
「だって突然だからビックリしちゃって…。え?で?そのハルくんは加奈子の家に泊まってるの?」
「うん…そうなんだけど、それが…」
加奈子は話を続けたところで、藍は加奈子の背後に立つ要の存在に気付き、加奈子の肩を叩いた。