近くて甘い
第49章 逃げ道
突然話を遮られた加奈子はいぶかしげな顔をして藍の事を見つめた。
「ちょっと藍!? 私の話聞いて──」
「おっ、おはようございます!副社長っ!!」
「えっ…」
藍の突然の叫びに、目を見開いた加奈子は、ゆっくりと身体を回転させた。
「………おはよう…峰岸さん…そして…」
優しく柔らかい声音。
そして優しい微笑み…
「───田部…さん…」
「かっ、要ふくしゃちょっ…」
動揺であわあわとする加奈子は、どうにかして言葉を発したいと思うが、身体がいうことを聞かない。
「あっ、あっ、あのっ…」
「それじゃあ…僕は仕事があるから…」
「え…」
何故かいつもと違った冷たさを感じた加奈子は、きょとんとしながら、その広い背中を見つめた。
違う…っ
私、言いたいことがあって…っ。
「あああああのっ…今朝はっ…」
「もう…クッキーはいらないよ」
「へ?」
顔を見もしない要の言葉に、加奈子は固まる。
「じゃあ…」
それだけ言って消えて行った要の背中を加奈子は放心状態で見つめていた。