近くて甘い
第49章 逃げ道
しばらくして、風呂場に加奈子が行ったことを確認すると、春人は、仰向けになって天井を見つめた。
このまま、普通に俺を選べばいいんだよ…
「…副社長とか言ってたけど…そんな身分のやつと釣り合うわけねぇだろ」
独り言を言った春人はそのまま溜め息をつくと、布団を強く掴んだ。
もっと重症なふりすれば、あいつ、明日会社休むかな…
まるで子どものようなズルい考えが浮かぶ。
会社休めば、その副社長とやらにも会わないし、一緒にいられるし…
「………最低だな…俺…」
横になりながら髪をくしゃくしゃとした春人は、そのまま加奈子が風呂からあがるのをジッと待っていた。