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「本当だ…っ」



気付かなかった…


それほどに、あの場所から逃げるのに精一杯で…



「頼むよ…」



休日の昼間。


たくさんの人が行き交う中、春人は躊躇うことなく、加奈子のことを抱き締めた。



「っ…ハルっ…やめてよっ…人が──」



「お前こそ、もうやめろ」



「っ……」




強めの春人の言葉に、加奈子は、ただ抱き締められたまま、黙った。





「もう…いいだろ…」



っ……………



目を瞑ると、先ほどの恵美の微笑みが浮かんで、それと同時に、瞳からたまっていた涙がこぼれ落ちた。



「帰ろう──…」



「………ぅっ……っ」



「俺と一緒に…」




横顔が好きで…



片想いを続けるって言ったけど…。



「ハルっ…」



こんなに辛いだなんて…



思わなかった…。



ポロポロと涙を流しながら、加奈子は、両手をゆっくりと広げて、弱々しく春人のことを抱き締め返していた。