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さようならも言わずに~恋は夢のように儚く~

第3章 弐

 嘉門は早口でまくし立てると、懐から小さな櫛を取り出した。朱塗りの櫛は町人町の小間物屋で買い求めたものだ。紅い地に白粉花が小さく描かれている。さして高価なものではない。屋敷に出入りしている御用商人に適当な品を見繕わせることも考えたが、それはこの際、止めておいた。
 女物―しかも若い娘の好みそうな櫛なぞを買い求めるところを母に見つかれば、何と言われるか判ったものではない。

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