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待ち人

第1章 待ち人

秋だったか。


散歩をしていたら小さな山の麓から細い一本道を見つけた。


多分、他の道もあったのかもしれねえ。


けど俺はこの先がどうなっているのか気になったもんで、ちょっとした好奇心でその山に入っていった。


その道はやたらくねくねしていたな。


草木が通り道を邪魔して、着物が汚れちまうほどの荒れよう。


そこを登ったところの峠に一本の大きな木があった。


あれがなんの木なのか俺にも分からねえが。


その木の下に、着物を着た娘がたっていたんだ。


偉くべっぴんだったぜ。


なんでこんな所にいるんだろうかと不思議に思った俺はその娘に声をかけてみたんだ。


「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているんだい」


娘は今俺に気づいたかのようにこっちを向いた。


「待っている人が居るのです…」


なんとまぁ透き通るような白い肌に蚊の鳴くような声で喋る娘だったな。


「こんなところでかい」


「…はい。約束した場所なのです…」


娘はそれだけ言うと、すっかり黙りこくってしまったのさ。


それに俺はこの娘に違和感を感じてな。


俺は草まみれになるほどだったが、


この娘の身なりはやたら綺麗だったもんで。


着物にひっつき虫の1つもついちゃいねえ。


日も落ちかけていてすっかり気味悪くなっちまってな。


男としてどうかと思うが…そこから微動だにしねえ娘をおいて俺は峠を下ったのさ。

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