テキストサイズ

両親へのプレゼント

第10章 両親へのプレゼント

 翌日の10時頃、梨奈と彼女の両親がチェックアウトに来られた。

 「おはようございます。昨日はごゆっくりお休みになられましたでしょうか?」と尋ねると、

 「おかげさまで、ゆっくりできました。お花までいただき、ありがとうございました。ほんとうにお世話になりました」と梨奈の母親が頭を深々と下げた。

 「今回はご宿泊いただきありがとうございました。また、来年もぜひお待ちしております。それから、もしよろしければ、お二人のご結婚記念日が8月16日ということで、この816号室のカードキーをお持ち帰りください」と私が言うと、

 「ありがとうございます。そこまで考えていただいていたなんて、誰も気付いていなかったです」と梨奈の母親が言った。

 「来年もぜひ、みんなでここに来たいね」と父の洋が言うと、

 「そうだね、また、家族で来ようね」と梨奈は少しうつむき加減で言った。

 私には梨奈が涙目になっているのを、父に勘付かれないようにしているように見えた。

 夏も終わろうとしていた9月下旬に、梨奈から手紙が送られてきた。

 手紙の内容は、満室にもかかわらず泊めてもらったというお礼と、そして、残念ながら父の洋が、9月20日に亡くなってしまったこと....

 梨奈の父が8月1日に再入院した時、医者から悪性の癌のため、あと長くて2ヶ月と言われていたのだ。

 しかし、最後に三人で思い出を作りたかったので、父の洋には内緒で母と相談をして、このホテルに宿泊をしようと決めていたとのことであった。

洋は亡くなる直前に、
 「また、みんなで、この前のホテルに行こうな」という言葉を残したそうだ。

そして、最後に父は苦しかったはずなのに、亡くなった時の顔は、微笑んでいるように見えたと書かれていた。

梨奈は父親の遺言どおりに、毎年、8月16日に(大文字の送り火)梨奈と母親が父に逢うためにこのホテルに宿泊をされている。

もちろん、部屋番号は816号室です。


追伸
この物語は真実をもとに書かせていただきましたノンフィクションです。ただし、お客様の名前、スタッフの名前のみ偽名とさせて頂きました。
あの時のお客様が、今も健在でおられることを願っております。

白鳥彰鴻
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ