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まとまらないお話たち

第1章 1


ちょっとばかし力の抜けた腕も、悟の体温も、忙しない鼓動も、バカみたいに荒い息も(変態かあんたは)、悟の全てがそう告げるのが解る。
きずつけてごめんね、って。
「(……バカ)」
そういえば紀本さんって家柄を利用して色々とやりたい放題しているんだっけ。
喧嘩大将とかいう大城クンもタジタジとか聞いたな。
…大将までにはならなくても良いけど。
‘普通’の悟が負けちゃうのは当たり前といえば当たり前か。
「オレは由香が良いんだ。頼むから…」
言葉尻はしぼんでしまった。
まったく、男なのになんて情けない声出してるんだろう。
胴体に回った腕はまるで縋るようで。
左肩に重み。
……額をつけてるのがわかる。
首に悟の髪があたって感じるむず痒さ。
直接的に肌に吐息を感じている訳じゃないのに不思議と悟の息が熱く感じるのは、なぜだろう。
簡単に許すなんてヤダ。
何回頬叩いたら気が済むとかそういう回数のことじゃなくて、胸のモヤモヤは、そう簡単に消えるものじゃない筈なのに。
気持ちが絆されてしまう。
「さとるのばか……」
「! お、おうっ! オレはバカだぜ、この間なんか数学のテストで8点しかとれなかったしな! マジでどうしようもねーバカだ!」
「……ねぇもういいからさ、離してよ。キライ」
「!! ゆ、由香ああぁぁぁ!」
「(……ぷ)」
いつもは耳を塞ぎたい程の絶叫も、この時ばかりはいとおしい。
うそだよ悟。
「(―――別れない、よ)」
恐らく消えてしまったんだろう悟の言おうとした終わりの言葉に胸中で言いながら。
行動では、そっと悟の背に両手を添えた。
「…消毒は、一回でいいよね?」
別れないという言葉の代わりに、彼に訊く。
なんというか、直接はやっぱり恥ずかしい。
それに、有無を言わさず実行に移すような勇気も私にはないから。
訊くも訊かないも結果は一緒。
これは単なる、
「え…―――」
驚いたようにパッと左肩の重みが消えたのを瞬時に確認して。
少し背伸びをして(いつか追いついてやるーっ!)。
…悟クンのお望みを叶えてあげた。
やっぱり恥ずかしいからすぐに顔離すけど、どうだ、満足か。
涙なんかもう既に止まってる。
けれど、別の意味ですごくホッペがアツい。
ああ、やっぱり私からするんじゃなかった。
悟から……ってナニ考えてるのよ、私。
「由香…」
驚いた顔をした直後に瞼を閉じ近付いてきたその顔。

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