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まとまらないお話たち

第6章 6


「いやー、どうもありがとうハルちゃん。助かるわぁ」
少しハル子たちとは違い、上がり気味のトーンで話すこの女性は、今回ハル子に男女の絵を描くよう依頼した主婦。
この人の本業は作家で、そして挿絵にハル子の絵をよく使用していた……他の絵師に頼んでも良いのだが、ハル子の描く男女が一番リアルで良いと彼女は言う。
「公園の絵も素敵だし、ハルちゃん進路は美術系の高校でも行ったら良いのに」
昔そんな風に考えたこともあった、けれど自分が伸ばしたいのはあくまでも「風景画」であって、「人物画」ではない。
けれど、家族、恋人同士などを描いた作品を見せると必ず他人は決まってこういう。
『漫画家にでもなったら?』
「いえ…普通高校に通いながら適当にOLにでもなる予定なんで」
苦笑しながらそう返すと、誰もが残念そうな顔になる。
…そこまでの才能は本当に自分にはあるのだろうか?
嬉しくないということは決してないのだけれど、
『君村先生って専門は美術らしいねーっ! 今度美術部入ろうかなぁ』
…………アイツと同じようなところに行くなんて、それだけはヤ。
「…あ、じゃあ今回のお代。また頼むかもしれないから宜しくね」
無理矢理茶封筒を手に押し付けられて、「いいです」と返す前に彼女は素早く去ってしまった。
「(………どうしよう)」
ため息一つ、袋の口から見て何枚もの重なる紙幣を確認し項垂れる。
別にそういうつもりで、絵を描いている訳ではなくて、単なるボランティアに過ぎないのだけれど。
こうして「報酬」を貰うことは、あの依頼人が初めてという訳はけしてなく。
使うつもりは勿論ない、別にほしいものなんてないし。
だから机の引き出しの、奥の方にしまって、そして依頼者と会うたびに返すタイミングを狙う日々。
今日も実は返すつもりで、別の今まで貰ってきた茶封筒を持ってきていたのだけど、…返す間もなかった。
というか、その話題を出すと相手は途端に「いいからいいから」と両手を振るのだ。
こちらこそ、「いい」のに。
…援助交際をしている訳ではないけれど、なんだか万単位の紙幣を貰うとどこか悪い気持ちがある。
「(…貯め…ようかな。高校…大学行くときとか、もしかしたら親に頼らないで自分で行けるかもしれないし)」
それにハル子には一つの夢があった。
自分だけの家を持つこと…田舎の、家族暮らしから離れて東京に一人暮らしをすること。

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