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まとまらないお話たち

第6章 6


数日後。
ハル子の足首には紺色と黒色で編みこまれたアンクレットが巻かれていた。
『付き合って下さい』
誰のでもない、あの加藤という男のもの。
もしかしたら熱射病にかかっていたかもしれない、告白なんて生まれて初めてだからか、体…特に顔の熱は思いのほか高まり。
早く熱から解放されたかった、早く家に帰って冷たいジュースでも飲みたかった。
………その気持ちからなのかもしれない、
『…宜しくお願いします』
“良い”と返事をしてしまったのは。
「(美形は美形…)」
加藤の笑顔を思い出しながら、スケッチブックに鉛筆で描いていく。
整った顔立ちはしていた、けれどだからといって一目惚れから生じる想い、好きなんてことはなかった。
けれど君村に感じたどこか反発心のような感情は、同じ美形でも彼には感じなかった。
素直に嬉しいと思った、自分のことを想っていてくれて。
素直に可愛いと思った、あんな女の子みたいな告白。
顔の赤みはそれほど彼は自分を想っている、ということで。
変なウラの顔は感じなかったし、…噂も良かったし、だからかもしれない、OKを出したのは。
それに男女が付き合うということにも興味はあった。
一体どんなことをするのだろう、…一緒に手を繋いで帰る?
それなら一つ下の可愛い弟と帰るようなものなのか、…一人っ子なのでわからないけれど。
「(…)」
<···私は本当にこの人を愛せますか?>
幸せな気持ちで描いたはずだった、現に線は細いけれど加藤の笑顔は優しく暖かいものだから。
しかし、いつも絵の終わりに記すサイン代わりの「一行文」は、今回のソレは、有り余るほど十分にある白いスペースの中の一角、左上にそう記された。
どうしてそう書いたのかわからない、もしかして迷う心がそうさせたのか。
…確かに悩んではいた、ファンクラブの嫉妬攻撃ってちょっと酷い時はかなり酷いらしいからどうしようかな、とか。
彼はバレないようにするとは言ったけれど、コソコソ付き合うのも案外難しいんじゃないかな、とか。
加藤が卒業したらどうするのかな、とか。
自分の進路は東京に行くことだけど、もし加藤が地元の高校に行くんだとしたらそれはそれで離れ離れになるな、とか。
……色々。
好きだから付き合う、それが恋愛なのかもしれない。
けれど、付き合ってから好きになるという恋愛もあるはず。

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