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まとまらないお話たち

第6章 6

だから疚しい気持ちなんて感じなくても良いのだ、後者の方でこれから彼を愛していけば良いのだから。
だから……。
『私は本当に、』なんてものは。
『愛せますか?』なんて疑問形は。
イラナイ。
「…!」
思考途中で扉が開く音がして。
慌ててスケッチブックを閉じ、筆記用具にペンとケシゴムをしまった。
入って来た人物…君村を確認し、すぐさま去ろうと席を立つ。
態々奴が来ない、部員も来ない活動日じゃない静かな時間に、1人で描きたいから来たというのに……。
「……態々逃げるように帰らなくてもいいぞ」
すれ違いざま、そんな声が頭上からして。
ムッとしたけどそのまま帰ろうとしたら、「別に疚しい絵を描いてた訳じゃないんだろ?」……。
ここで帰ったらそれを認めるということ。
それだけはしたくない、自分は厭らしい中学生なんかじゃないのだから。
頼まれて描いているだけ、ただ頼まれても「イメージがつかめない」と言うと、前回頼んできた主婦、柏崎さんや趣味で漫画を描いていてたまにカップルの絵などを一緒に描く橘さんは実際に『モデル』さんを連れてきて、それを描いてと言ってきた。
まだ絵描きとしては未熟な才能で申し訳ない気持ち半分、男女モデルの体勢は、なんだか直視できないところもあり。
けれど『仕事』の一部として、柏崎さんや橘さんが気持ちよく作品を創れるよう、『ボランティア』としていつも赤い顔で描いている、……直接的には、柏崎さんや橘さん、それにモデルの人もソレが何を示しているかなど教えてくれない。
柏崎さんとか、本当はそういう作家をしているのじゃないかと疑うときがあるけれど、訊けない。
…そして気持ちわからぬまま、絵につける文はどこか『そういう』ものになる。
あれとは何? それとは何? そういうものとは一体何?
実を言うと先ほど君村が言った「疾しさ」も、どこかそんなものに感じた、……疾しいは、確か「悪い」という意味のはず。
違うのか? 何か別の意味もある? 
それとも、別の何か悪いことを自分は考えてしまっていたのだろうか―――。
「………30分には帰ります」
チラリと壁時計の秒針確認。
もう少しで5時になろうとしていた、…6時では駄目、いくら明るいといえども、いくら家が皆共働きで遅くまで帰らないと言っても、一時間ここにいるのは苦痛だ。
30分程度なら良いだろう、…丁度描きかけの空の絵もあったし。

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