禁断兄妹
第62章 夢のチカラ・夢のカケラ
部屋に戻ると
お父さんはベッドに入っていて
眠っていたようだった。
「遅かったね萌。どこまで送っていったんだろうと思ってたよ」
灰谷さんが言うように疲れているのか
微笑む顔色が
少し悪かった。
「下のベンチで話をしていたの」
「そうだったのか。どんな話をしたの?」
「灰谷さんが子供の頃の話とか‥‥」
そうか、と
深く息を吐くように言って
お父さんは
また目を瞑った。
「彼はどんな子供だったんだい?お父さんにも教えて欲しいな」
「うん‥‥でもお父さん、疲れてるんじゃない?眠ったほうがいいんじゃない?」
私がそう言ったら
お父さんは薄く目を開いて
ふふっと笑った。
「会話をすると体力が消耗するのは事実だな‥‥でも、お前の声を聞いていたくてね。
弘至君の話でも何でもいいから、喋ってくれると嬉しいよ」
「じゃあ、色々話すけど無理に会話しようとしなくていいからね。
目を閉じて黙って聞いててもいいし、途中で寝ちゃってもいいよ」
「ああ、わかった」
「そうだ、灰谷さんてヒロシだからヒロって呼ばれてるの?
さっきね、今のヒロじゃないかって言った人がいたの」
私はエレベーターの中で聞いた会話を
お父さんに教えてあげた。
若い男性の二人組は
カッコいいとかすごいとか盛り上がっていて
背中で聞いている私は
誇らしいような
恥ずかしいような気がした。
そんな気持ちも全部話したら
それはお父さんにとっても嬉しい話だなあ、と
喜んでくれた。
「アルファベットでHIRO(ヒロ)って書くのが彼のリングネームなんだよ。
格闘技が好きな人にとっては有名な選手と言っていいんじゃないかな」
「有名なのに、アルバイトしてるんだね」
不思議な気がして
思ったままにそう言ったら
格闘技だけで食べていけるのは、ほんの一握りの選手だけだよと
お父さんは笑った。
「でもね、弘至君は大みそかの大きな試合に出場することが決まっているんだ。
そこでいい結果を残せたら、格闘技一本でやっていける道が開けるかもしれないね」