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禁断兄妹

第62章 夢のチカラ・夢のカケラ



ステージの袖で
出るタイミングの指示を待っている俺に


「俺を呼んでたって?どうしたの」


すっと近寄ってきた和虎が
耳元で囁いた。


「頼みがある。さっき萌が父さんの危篤を知らせる為にここに来て、一人で帰った。きっと電車だ。聖××病院だ。追いかけてくれないか」


ステージから目を離さずに
早口でそう告げると

和虎は
了解、と頷いて
風のように立ち去った。


和虎はこのブランドには出演しないし
DJも終えている

頼ってばかりで申し訳ないが
きっとうまくやってくれるだろう


「はあっ‥‥」


大きく息を吐き
強張る首と肩を回した。


もし父さんの死に目に会えなければ
俺は
無理にでも行かなかったことを
一生後悔するだろう

でも

ドタキャンの代償として
信用を失い
干され
最悪モデルを続けることができなくなれば

もっと

後悔するだろう



「一ノ瀬君、GOっ」


進行役の手に
ポンッと背中を押されて

溢れる光の中へ
歩き出す。


俺は
この世界で生きていくと決めた


夢も
成功も

萌との未来も

このランウェイの先にある


もし父さんが

俺を待たずに死ぬのなら

それが
俺と父さんの

答えだ

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