禁断兄妹
第62章 夢のチカラ・夢のカケラ
サプライズのように現れ
スポットライトを引き連れてフロアを歩いた俺が
イントロと同時にランウェイに飛び乗った演出は成功し
フロアは熱狂に包まれた。
バックステージに下がった俺を
スタッフや他のモデル達が興奮ぎみに迎えてくれて
殺気立っていた演出家も
ホッとした表情
「いやあ、モーゼさながらだったな。君はピンチをチャンスに変える力があるね。素晴らしかったよ」
感心したようにそう言って
向こうへ行きかけるのを
引き留める。
「あの、すみませんが今日はこれで抜けさせてもらえませんか。父が危篤なんです」
「えっ?!」
「本当に危ないらしいんです。お願いします」
俺は
ここまで妹がやって来て教えてくれたと
切迫している状況を訴えた。
「一刻を争うかも知れないんです」
「そうか。でもこのブランドのイチオシはみんな君が着る予定だろう?
俺じゃなくて、プレスやプロデューサーの了承が必用だ」
「では直接お願いしてみます、どこにいるかご存じですか」
「さっきプレスはいたな。プロデューサーは二階のVIPルームかどこかで見ているだろうけど、ここにはいない」
そんな会話をしている内に
フィッターに二着目が着せられていく。
「スタッフに探しに行かせて事情を伝えるから、とりあえず一ノ瀬君はショーに集中してくれ」
「‥‥はい」
「事情が事情だし、俺からも口添えするよ。彼らのOKが出れば構成なりモデルなり変更する」
「わかりました。迷惑かけますが、宜しくお願いします」
深く頭を下げた。
今できることは
それしかない
「‥‥一ノ瀬君、キミさ、仕事はできるけど女癖悪いとか荒んでるとか聞いてたから、どんなしょうもない奴かと思ってたけど、いいじゃん。気に入ったよ」
演出家は
初めて微笑んで
俺の肩を叩いた。
「一ノ瀬さん、スタンバイお願いします!」
「あ、はいっ!」