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禁断兄妹

第63章 聖戦



二着目を終えてバックステージに戻ると
このブランドのプレスが待っていた。

事情は聞いた、致し方ない、と
無念そうながらも
中途でショーを抜けることを了承してくれた上

今日の俺を気に入ってくれたプレスは
後日改めて
来年製作予定のムックのオファーを出したいとも言ってくれて

申し訳なさと
ありがたさに
ただ頭を下げるしかなかった。



後はプロデューサー

探しに行ったスタッフは
まだ戻ってこないらしい。


じたばたしてもどうにもならない

三着目を
身に纏う。



───私が、いっぱい喋りかけたの、お父さん疲れてたのに、全然気がつかないで、ずっと‥‥!───


───このままお父さんが死んじゃったらどうしよう、どうしたらいいの?!───



萌が見舞いに行っている間に
容態が急変したんだろうか


あんなにパニックになっていたのに
話を聞いてやれなかった

時間がなかったとはいえ

もう少し違った対応の仕方が
あったのかも知れない



「ふうっ‥‥」


「あっ、すみません、苦しいですか?」


首元のタイを調節していたスタイリストが
慌てて手を離す。


「え‥‥?
 ああ、そっちじゃないんです。大丈夫です」


寒く暗い夜道を一人で駆けていった萌の
振り返らない後ろ姿が

何度も
胸に甦って

その度に息苦しくて

堪らない


もう一度息を吐きそうになって
スタイリストの視線に気付いて
飲み込んだ。


確かに萌は方向音痴だが
一度来た道を引き返すだけ

駅までの道はそれなりに人通りもあるだろうし
迷うはずがない

大丈夫だ


それに
和虎が追いつくはずだ

萌を慰めながら
二人病院に着く頃には
父さんの意識も
戻っているかも知れない

落ち着け

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