禁断兄妹
第63章 聖戦
鳴った携帯は
柊兄から
急いで通話を押すと
「萌と会えたか?!」
耳にあてる前から
大きな声が聞こえた。
「ごめんまだ会えてない、柊兄ショーは?もう終わった───」
「会えてない?!今どこだ?!何回かけても萌が電話に出ねえんだっ」
早口の声
俺の問い掛けは
耳に入ってないみたいだ。
「クラブから一般的なルートで走ってさっき駅に着いたんだけど、会えなくてさ。
改札にいた駅員と売店の人に萌の特徴を話したけど、見かけてないって」
「まだ駅に着いてないってことか?!マジか、クソッ!!」
更に熱を帯びる柊兄の声
走るような息遣いと
足音が聞こえる。
なんだか様子がおかしい
「落ち着いて柊兄、焦り過ぎだよ。
俺と違う道をまだ歩いてる最中で、着信に気がついてないんじゃない?
それか駅員が見逃してるだけで、もう電車に乗って──」
「ヤバい奴が萌をつけてるんだ!!
駅に着く前に、どこかへ連れ込まれてるのかも知れねえ!!」
「‥‥ヤバい奴?つけてる?え、何、どういうこと?」
「もう一度萌にかけてみる、切るぞ!!」
電話は一方的に切られてしまった。
ヤバい奴が
萌をつけてる‥‥?
寝耳に水の話に
俺は呆然と立ち尽くしてしまった。
腕時計の針は
21時を指している。
こんな時間にショーが終わるはずがないから
柊兄は特別にあがらせてもらったんだろう
舞台の袖で言葉を交わしたのは
つい十五分ほど前
その時は
そんなこと何も言ってなかったし
かなり冷静だったのに
この短い間に
いったい何があったのか
さっきからぽつりぽつりと
氷雨が降りだした夜の街
辺りを見回し
白い息を吐き
携帯を鳴らしながら走る柊兄が
目に浮かぶ。
「どうしたんだよ柊兄‥‥萌‥‥何があったんだよ‥‥」