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禁断兄妹

第64章 聖戦②




「‥‥さん‥‥萌さん‥‥っ」


誰かが

私を呼んでる


首に巻き付いていた何かが

離れていく


その感触と一緒に

窮屈だった両手が
解き放たれて

ばらりと落ちた。


「ああ、なんてことだ‥‥ちくしょう、あの野郎‥‥っ」


目を開けようとしたけど

ひどく重たい


泥の中から這い上がるように
瞼をこじ開けると


私は
暗い車の後部座席に

横たわっていて


目の前には
荒い息の

灰谷さんが


寒いと思っていた私の服の前を
着物のように合わせ

何かで結んでくれていた。



灰谷
さん‥‥?



声になっているのか
わからなかった

でも

目が
合った。


「あの男は今失神しています‥‥もう大丈夫、大丈夫ですからねっ」


燃えるような瞳が
泣き出しそうに
細くなって


すみません

あなたを見失わなければ
こんなことには


そう続けた声も

取り出したハンカチで
私の顔を拭う手も

震えている。


「病院で別れたはずの私が現れて、さぞ驚かれてるでしょうね‥‥でも、あの、決して変な気持ちでついて来た訳ではないんです‥‥っ」


灰谷さんは

やっぱり心配で待っていたけれど
しつこいだろうかと
声をかけるタイミングを失ってしまった

一生懸命な声で
そんなようなことを言いながら
コートを脱いで

まだ体温の残るそれを

私の手を取り
着せてくれる。


「あなたは寄りたい所があると言ってたし、あの男も知人のように見えました。
 二人が走り出した時も、あなたがあの男を追いかけていたので、声をあげるのがためらわれて‥‥」


膝から首まで
すっぽり包まれて

不器用に
引き上げられるジッパー


ぼんやりと

目で追う。



「‥‥すみません、全部言い訳ですっ!!

 あなたの力になると誓ったばかりなのに‥‥っ」



「‥‥」



私と灰谷さんは

どうしてこんなところに
いるんだろう


喉や目の奥が
焼けるように痛いのは

嫌な臭いがするのは


どうしてなんだろう



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