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禁断兄妹

第64章 聖戦②



「とにかく警察を呼びましょう。
 あいつらが目を覚まさないうちに縛りあげてきます。少し待っていてください」


‥‥警察‥‥?


どくん、と

心臓が
大きく波打った。


どうして

警察




───もがき苦しむ姿を一ノ瀬柊に見せてやれ───



突然頭の中に

声が響いた。



───自分の顔を切り裂かれる以上の苦しみを、あいつに与えてやれ。

 ‥‥それがお前の役割だ───



真っ黒な深海魚の尾びれが

私の唇を

べろりと撫でた。



「ひ‥‥っ!!」



闇を切り裂いて

落ちてきた稲妻


その真っ白い閃光が
私を包んでいた霧をなぎ払って

全ての出来事が

真昼のようにくっきりと

浮かび上がった。



「‥‥萌さん‥‥?」



さっきまで
この首に巻き付いていたもの

さっきまで
目の前にいた人間が

私にしたこと


光るナイフ

シャッター音


目が眩む

目が



「大丈夫ですか萌さん、気分が───」



「やだ‥‥っ!!」



触ら
ないで



「そうか‥‥意識がはっきりしてきたんですね?」



伸ばしかけていた手をすぐに引いて
灰谷さんは私と距離を取った。


激しく打ち鳴らされる心臓


寒かったはずの身体から

汗が吹き出す。



「大丈夫、落ち着いて。
 あの男達は失神していますし、目が覚めたとしてもろくに動けないでしょう。
 もうあなたには指一本触れさせません」



暴れ続ける心臓

呼吸が乱れて
口で呼吸をしてもまだ苦しい。


あの
ナイフを操る悪魔が
失神


そんなこと
きっと灰谷さんにしかできない


あの男を倒してくれた

私を
助けてくれた


わかってる
わかってるのに


どうしようもなく

怖い


「ごめん、な、さいっ」


「そんなに声が枯れて‥‥さぞ喉が痛いでしょう。もう何も喋らなくていいですから、ね」


灰谷さん


あなたが来てくれなければ

私は犯されていた


こんなひどい臭いを放っている私に
何の躊躇もなく触れてくれた

自分のコートを
着せてくれた


でも

大きな身体から放たれている
雄の存在感に

言い様のない恐ろしさを感じる


感謝と
恐怖


頭と身体が

バラバラ

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