
禁断兄妹
第64章 聖戦②
全ては
一瞬の出来事
我に返って
隣に目を移すと
柊兄は
地面に座り込んだまま
その腕の中には
小さな身体を
抱いて
「萌‥‥?萌‥‥?」
繰り返される
呆然とした声
まさか
本当に
柊兄の正面に回って
膝をつき
腕の中を覗きこんだ。
そこにいたのは
まぎれもなく
萌だった。
蝋のように白い顔
薄く閉じられた瞼は
柊兄の呼びかけにも
無反応で
力の全く入っていない身体が
人形のように
揺さぶられている。
「萌‥‥?萌‥‥っ」
柊兄が
掠れ声で呼びかけては
小さく揺すって
その頭を
生気のない顔を
震える手のひらで撫でる。
萌の頬を撫でるたびに
白い肌に
黒く広がっていくものに気づいて
息を飲んだ。
萌の上だけに
黒い雨が
降っているかのように
髪の生え際から
幾筋も
黒く流れ落ちてくるもの
「頭から血がかなり出てる‥‥地面にぶつけた時に切れたのかも。動かさないほうがいい」
俺の声が聞こえていないのか
柊兄は
うわごとのように萌を呼び
頬を撫でては
抱きしめ
顔を覗き込むことを繰り返す。
完全に
パニックに陥ってる柊兄
きっと
ハイタニのことも
突然現れた男のことも
柊兄の頭からは消し飛んで
萌だけを
見てる。
俺が
しっかりしなきゃ
いけない
「ハイタニとかいう人!!救急車を呼んでくれ!!」
男に馬乗りになって
縛りあげているハイタニに叫んだ。
「救急車?!萌さんにか?!今ので怪我をしたのか?!」
「頭を打ったみたいで気を失ってる。血もかなり出てるし病院に運んだほうがいい!」
彼が背中に萌を隠していたのは事実だし
不審な点だらけ
でも
萌を律儀に『さん』付けで呼ぶハイタニ
本当に何か事情があったんじゃないか
少なくとも
萌の味方なんじゃないか
さっきの
壮絶な戦いを目の当たりにした俺は
そう
感じていた。
