
禁断兄妹
第64章 聖戦②
「柊兄、頭を打った時は動かさないほうがいい」
俺は
止まらない柊兄の手を掴んだ。
その手が
手首まで
黒く濡れていて
あっと
声をあげそうになる。
「萌が‥‥起きねえ‥‥」
柊兄が
顔をあげた。
萌と同じくらい
真っ青な顔からは
感情が
抜け落ちていて
乱れた前髪の間から俺を見る瞳は
瞬きも
しない
───血の海の中にあいつがいるのが見えた。生きてる人間の顔じゃなかった───
不意に
要の言葉が
胸に浮かんだ。
───あなた死相が出てますよ。気をつけて───
萌は
柊兄の命
そのもの
萌の死は
柊兄の
死
思わず
そんなことを考えた自分がいて
頭を振る。
バカな
やめろ
「萌が‥‥俺にぶつかってきて‥‥」
無表情な声で
柊兄が
呟いた。
「それで俺がのけぞった時に、額のすぐ上を、ナイフみたいな物が飛んで行ったのが見えた‥‥
萌がぶつかってこなきゃ、俺の顔に、刺さってた‥‥」
独り言のような
柊兄の言葉
にわかには信じられない
けど
あの罵声
金属音
柊兄に
投げつけられたものだったのか
「わかんねえ‥‥わかんねえけど、萌はきっと、俺を助けようと、して‥‥っ」
次第に
苦し気になって
肩で息をし始める柊兄
「でも、俺の身体に弾き飛ばされて‥‥地面に落ちたんだ、頭、から‥‥
俺が萌を受け止めてたら、こんな、ことには‥‥」
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて柊兄。
俺が止血するよ、多少心得がある。萌を離してここに寝かせて」
俺は着ていたコートを脱いで
アスファルトの上に敷き
マフラーをたたんで枕のように置いた。
「離す‥‥?」
「抱いてると柊兄の揺れが萌に伝わるだろ。
頭を打った時はできるだけ動かさないほうがいいんだ。さあ───」
「‥‥嫌だっ」
柊兄が
子供のように叫んで
萌を
強くかき抱いた。
