禁断兄妹
第64章 聖戦②
「‥‥そういえば、あいつを縛りあげてたけど、どうしたんだ?」
バタバタしていて
その後どうしたのか確認していなかった。
「あのまま置いてきました」
「あのまま?警察は?呼んだ上で置いてきたんだろうな?」
「通報などはしていません。気絶してるうちに縛って転がしてきただけです」
「それじゃ逃げてしまうじゃないか!
あいつが柊兄に何かを投げたことは事実だし、萌がぶつかってこなきゃ、柊兄は大けがしてたかも知れないんだぞ?実際萌は大けがをしてるんだ、警察に通報すべきじゃなかったのか?!」
「事件になれば必然的に大ごとになるでしょう。萌さんの意に反します」
俺は
堪忍袋の緒が切れるのを
感じた。
「萌さん萌さんって‥‥あんたバカなのか?いや萌バカ?
あんたが萌に何を言われたか知らないよ、でもさ、愚直に守ればいいってもんじゃないだろ?!常識ってもんがあるだろ?!」
「常識って、なんですか」
俺に対するハイタニの態度に
初めて
怒りにも似た熱が
こもった。
「常識は守らねばいけませんか?越えてはいけませんか?」
「はあ?!俺が言いたいのは───」
「バカだと思われても構いません。
ただこれだけは言いたい。
私は萌さんの心からの望みを知っているんです。勝手に踏みにじりたくは、ありません‥‥っ」
萌の
心からの望み?
それは何だ
言え
言ってみろ
と、喉元まで出かかって
飲み込んだ。
正確には
言えなかった。
すれ違う車の
ヘッドライトに照らされたハイタニの横顔が
憤りと
悲しみに
歪んでいた
から
「もういい‥‥悪かった。俺が悪かったよ」
どこまでも頑ななハイタニには
心底辟易する。
だけど
荒削りな彼の言葉や態度には
萌への忠誠心とも取れるほどの
深い想いが滲んでいるようにも思えて
もうこれ以上
何か言う気には
なれなかった。